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覚書4/「ペコロスの母に会いに行く」



(岡野雄一/著 西日本新聞社/刊)

読書、というよりも漫画なんですが……。

体調の良くない娘を連れて、かかりつけの内科医院に行った時のこと。
待合室で手に取った週刊誌をパラパラと見ていると、この漫画のページが目にとまりました。
横から娘が
「あ、これ、いいじゃろ。本屋で何の気なしに手に取って見たら、すごく泣けたよ」
と口を出します。さっそくネットで注文しました。

東京から長崎にUターンした元編集者である作者が、父の死後、母の認知症と対峙しながら、その日々を綴る内容です。とかく深刻になりがちな介護の生活が、時にユーモラスに、時にしみじみと描かれています。

母親の意識の中で、時間は自由に行きつ戻りつし、娘時代の自分を見、亡くなった夫に手をとられ空間を飛び、もういない友人の訪問を喜ぶ。

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さっき、父ちゃんが訪ねて来なったばい
なあ ユウイチ
私(うち)がボケたけん 父ちゃんが現れたとなら
ボケるとも悪か事ばかりじゃなかかもしれん
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昔の良かった事も辛かった事も、どんどん忘れてどんどん身軽になって行く母。
そんな母を傍らで見つめる作者の優しい目。
笑いとともにサラッと描き流しているように見えて、生きることの切なさが、心にジワジワと沁みて来ます。

各章の間に挟まれたエッセイも、漫画では描ききれない背景や人物像を補完して、さらに思いを深くします。

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 近くの小さな横断歩道に来ると、母は道向こうを指差して「父ちゃんの立っとんなる」とつぶやくのだが、もちろん僕には見えない。父は10年以上前に亡くなっている。
 何となく道向こうは彼岸、こっちは此岸のような気がして、そういう時は、渡らない。
 父はというと、気軽に横断歩道を渡ってこっちにやってくるらしいのだ。らしい、と言うのは、もちろん僕には見えないから。
 そして母が脳梗塞で動きの不自由な手を持ち上げて、「こじけとる(天草弁でしびれてる)とです」とつぶやく時、ああ、父がここに居るんだ、とわかる。
 不器用に母の指を撫でている父の姿を想像しながら、しばらく車椅子を動かさないでいる。
 若い時あれだけ苦労させられた母が、そういうことはなかったみたいに優しい表情をして、父に手を差し伸ばしている。
 そして、最近この横断歩道を渡って行ったであろう、お隣のおばあちゃんや同級生に想いを馳せる。
 向こうに渡っていっても、一人一人に、こっち側で待ってる人がいて、こうして触れ合いながら言葉を交わせることができる限り、本当には亡くなってはないんじゃないか、と思ってしまう。
 そして認知症にならないと、彼岸と此岸を結ぶ横断歩道は現れないのかもしれないとも思う。(「横断歩道のあちらとこちら」より抜粋)
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お薦めの一冊です。

この本は第42回日本漫画家協会賞を受賞して映画化され、「2013年 第87回キネマ旬報ベスト・テン」において「日本映画ベスト・ワン」に選ばれたのをはじめ、数々の映画賞を受賞しています。
公式サイト→http://pecoross.jp/

7月2日、DVD、Blu-ray発売予定。

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8 Comments

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No title

https://s.yimg.jp/images/mail/emoji/15/ew_icon_s357.gif">https://s.yimg.jp/images/mail/emoji/15/ew_icon_s316.gif">紹介して下さって、ありがとう。

いつか、誰もが訪れるであろう、その時…。

重い話になりがちなのを、こうしてユーモラスに。

ココロがホッと軽くなれそう。

2014/05/10 (Sat) 20:30 | EDIT | REPLY |   

ひやく  

No title

もうすぐ古希 私も他人ごとではありませんが 図書館で探して読みたいですね。

2014/05/11 (Sun) 06:55 | EDIT | REPLY |   

ちぇしゃ猫  

No title

macoさん、こんばんは。

ホントは介護を楽しむなどと言えるほど、生易しいものではないのでしょうが、それでも、大変な日々の中から、ふとした笑いのエッセンスを抽出して、私達に届けてくれる作者の想いをしっかりと受け止めたいと思いますね。

もう若くもない歳になり、老いることにいろいろ想いを巡らせます。

2014/05/13 (Tue) 02:25 | EDIT | REPLY |   

ちぇしゃ猫  

No title

ひやくさん、ぜひ一度ご覧下さい。

気持ちはずっと若いままのつもりでしたが、「老い」が現実味を帯びて感じられる歳になりました。

人の手を煩わすことなく生きていけたらな…と思います。

2014/05/13 (Tue) 02:28 | EDIT | REPLY |   

はなせんめい  

No title

公式サイト、拝見しました。
すごいですね~ たくさんの賞を受賞されるほどの素晴らしい内容の映画なのですね。ただ泣ける映画ではなくて、現実的な将来を描いているのですね。見たかったわ~。
それにしても主演の赤木春恵さん、89歳!?
現役の女優って、すごいね。いつまでもお元気で居てほしいと思いました。

2014/05/13 (Tue) 15:38 | EDIT | REPLY |   

チサト  

No title

この本、私も読みました・・・ちょっと 泣けちゃって・・・

映画も 観に行こうと思っていたのに、人が入らなかったせいか
あっという間に 上映が終わり がっかりでした^^;
くすっと 笑えるところが 救いかな・・・

2014/05/14 (Wed) 02:49 | EDIT | REPLY |   

ちぇしゃ猫  

No title

はなせんめいさん、私も映画は見逃しました。
来月、在宅ワーク支援センターのある施設で自主上映されるようなんですが、その直後にDVDがリリースされるので、それまで我慢しようかな~、と。

赤木春恵さんは初主演としては最高齢で、ギネス認定されたそうですよ。ずっと「日本のお母さん」という役柄でしたよね。本当に、これからもお元気で長生きしていただきたいです。

2014/05/18 (Sun) 12:05 | EDIT | REPLY |   

ちぇしゃ猫  

No title

あづみさん、こんにちは。

ご覧になりましたか。
お母さんとお義弟さんとの「エンドレスシアター」数編は、一番のお気に入りです。
歳とともにあっという間に過ぎ去る時間も、ここではゆっくりゆっくり流れていくような。
上手に歳をとっていけたらいいと、誰しもが思うことなんでしょうけど。

2014/05/18 (Sun) 12:09 | EDIT | REPLY |   

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